東京高等裁判所 昭和45年(ネ)2064号 判決
四、しかしながら≪証拠≫によれば、同人が東京警察病院の医師として控訴人の診察にあたり、控訴人の頸椎捻挫が本件事故による外傷に基づくものであるとの診断は、主として問診の結果控訴人の本件事故により負傷し、その後痛み出したとの訴えおよび臨床的所見がむち打ち症に一致したことを根拠にしたものであって、そのほか、交通事故に起因するものであるか否かについて特別の配慮をしなかったことが認められ、右事実によれば、前記東京警察病院の担当医師の因果関係を肯定する旨の診断は、直ちにこれをそのまま信用することに躊躇せざるをえない。
さらに≪証拠≫に、同人の医師としての診療経験よりすれば、頸椎捻挫の症状は受傷後通常二、三日以内遅くとも一週間以内にあらわれるものであり、学会等で一月後にあらわれた旨の発表もあるが、当該受傷に起因するものかどうかの医学的根拠はないと考える旨の供述、≪証拠≫に、同人の医師としての診療経験よりすれば、頸椎捻挫は、受傷後通常二、三日以内、遅くとも一、二週間内に何らかの自覚症状があらわれる、半年位経ってから突然にその症状が出ても当該受傷との因果関係を認めることは不可能な感じがする旨の供述があり、これら供述に、前記認定の控訴人の受傷後の症状の推移(二の(2)ないし(7))および控訴人の頸椎捻挫の原因となった外傷により生じた左肩甲部の骨頭外側部の針状異常陰影が診察時より三ケ月以内、即ち本件事故より一ケ月余経過した昭和四二年八月二九日頃以降に生じたものと認められる事実を併せ考えるときは、控訴人が本件事故後第二次外傷を受けたと認めるに足る証拠がないことを考慮に入れても、なお前記三に掲げた証拠をもってしては、いまだ控訴人の頸椎捻挫と本件事故との間に相当因果関係が存在するとの確信を抱かせるには充分ではなく、他にこれら証拠を補足して前記因果関係の存在を認めるに足る証拠も見出せない。
(石田哲 小林 関口)